武道で学ぶ「間合い」と心地よい関係の距離感
人には「パーソナルスペース」といって、無意識に保っている心の境界線があります。
近接学のホール(1966)によると、信頼関係のある相手以外が自分の1.2メートル以内に入ると、人は不快感や緊張を感じやすくなります。
ところが、最近は「親しみの表現」と勘違いして、この境界線を無遠慮に超えてしまう方が増えています。
子どもに適切な距離感をどのように教えたらよいか、と教育関係者の方に尋ねられることもあります。
悪気はないのかもしれませんが、相手のパーソナルスペースを考えずに、急に距離を詰めたり、安易に身体やものに触れたりするのは、「フレンドリー」ではなく、ただの「馴れ馴れしさ」になってしまいます。場合によっては、相手に対してとても失礼なことにもなりかねません。
実は、武道の世界で種目や流派を超えて共通して重視されているのも、この「間合い」(距離感)です。
戦いの場において、「お互いの攻撃が届く範囲のギリギリ外側を維持すること」。
これが、生死をかけた攻防の生命線になります。
一歩間違えて不用意に入り込めば即座に攻撃され、遠すぎればこちらの攻撃が相手に届きません。
だからこそ、武道をする人は、空間や距離に対して誰よりも敏感です。
無断で相手の領域を踏みにじるようなことは、自然としなくなるようになります。
適切な距離を保つことは、現代においては命をかけた戦いがあるからではなく、
お互いが一人の人間として、尊重し合うための最低限のマナーの間合いと言えるでしょう。
過剰にベタつかず、他人の領域を大切にする。
お互いに自立した大人として、心地よい距離感を保ちながら高め合う。
私たちが目指す道場の空気感も、この「洗練された間合い」の上にあります。
お互いの領域を守り合える大人の節度があってこそ、真に心を整えられる場が保たれるのだと信じています。


