【興誠館の道しるべ①】人を呼ばぬ灯り

京都の夜には、人を呼ばぬ灯りがある。
大きな寺を囲う塀に沿って、小さな灯りが並んでいる。
十メートルおきくらいだろうか。
道を照らし尽くすほど明るくはない。
それでも、その灯りがあるだけで、人は足元を見失わずに歩いていける。
私は、あの夜の景色が好きだ。
十年以上前。
一つの質問を受けた。
「先生にとって、教師とは何ですか。」
私はこう答えた。
「学生さんたちの道しるべのような先生。京都の夜の明かりのような先生です。」
この言葉は、その場で思いついたものではない。
当時の私は、静かに独立への準備を進めていた。
興誠館を立ち上げる。
口にできないことは多かった。
それでも、自分が信じた方向だけは見失いたくなかった。
教師は、学生の人生を代わりに歩くことはできない。
迷わない人生を与えることもできない。
ただ、進む方向を見失ったとき、道しるべになることならできるかもしれない。
そう思ってきた。
興誠館の三大理念の一つに、「至誠」がある。
約束を守ること。
大切なものを守ること。
誰かのために、小さな灯りをともすこと。
同じ言葉でも、人によって受け取り方は違う。
それでいいのだと思っている。
京都の夜の灯り。
「至誠」。
その二つが重なるのは、まだ先のことだった。

